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走ってばっかりだなあと、案外のんきに思う。
長い距離だし、もちろんすごく疲れるけど、それでも家までの道を走って行く。
まず何を話せばいいんだろうとか、そもそもどんな顔して帰ればいいのかとか。
いろいろ考えて、でもまとまらなくて、結局とりあえず急いで帰ろうとだけ考えついた。
帰って、お父さんとお母さんに会って、それでどうなるか、わたしにもまだわからない。
もしかしたら思っているよりもずっと、辛いことが待っているかもしれない。
それでももう、逃げてはいられない。
ハナに引き上げられてしまったから。
真っ暗闇の底から。小さな光の見える場所まで。
せめて、わたしの思いを話そう。
それで家族が、本当に離れ離れになってしまっても。
何もかもから目を背けて、隠れているよりは、きっと、ずっとましな景色が見える。
「……はあっ」
家まで、残すはまっすぐな1本道を行くだけになった。
街灯の明かりがつくる丸い円の真ん中で、走り続けてきた足をゆっくりと止める。
何度も深く息を吸った。乱れた呼吸はそれでも治らないけれど。
胸に手を当てるとわかる、心臓がとても大きな音で鳴っていること。
走ったせいだけじゃない。もっと別の理由で、どんどん速く波打っている。
「…………」
一度足を止めてしまえば、そこからなかなか進まなかった。
行かなくちゃ、とわかっているのに、頭と体が一致しない。
こんなにずっと走って来たのに、今は足が鉛みたいに重かった。
どうしても前に進めなくて、後ろを振り返りそうになる。
「……ハナ」
でもだめだ。振り返っちゃいけない。行くのが恐くても、行かなくちゃいけない。
ちゃんと、前へ。前を、向いて。
ぎゅっと、小さく震える手を握り締めた。
息を吐いて、前を向く。
──目を、見開いた。