息を吸った。大きく呼吸をした。

ハナと同じ目線で立って、まっすぐに視線を繋ぎ合わせる。


「ひとりで行ける?」


ハナが問う。


「大丈夫」

「ちゃんと話せる?」

「うん」

「思ってること、全部話すんだ」

「うん」

「それから聞くんだよ」

「わかってる」

「セイちゃん」


ぎゅ、とハナがわたしを抱き締める。


「これは……おまじない?」

「よくわかったね。セイちゃんが、心から笑えるおまじない」

「なにそれ」

「効くんだよ、俺のおまじない」


ふふ、とつい笑うと「ほらね、もう効いてきた」とハナが言った。

離れる温度が名残惜しいけど、わたしは、行かなくちゃいけない。


丘を、一気に駆け降りる。

一度だけ振り返って、まだそこに居るきみを見上げた。


「気を付けて」


ハナの声に、わたしは頷く。


「行ってくる」


別れの言葉の代わりにそう告げて。

ハナが笑ったのがわかった。

笑顔は返せないけれど、きみに、ちゃんと前へ向かう、背中を見せた。