ハナを見た。

トクン、トクンと、静かに心臓が鳴り始める。

頭の中を何かが駆け巡っていく。


「お父さんと、お母さんの気持ちなんて……」


知っている。

あんなに大きな声で、口に出して叫び合っていた。


『私はもうこんな生活いやなのよ!!』

『俺だってうんざりだ!!』


わたしが居なければきっと、ふたりはもっと自分の好きに生きられて。

そうすればあんな風にいがみ合うこともなくなるかもしれなくて。


わたしなんて居なければいいと。

わたしさえ居なければと。


気付いていても気付かないフリをしていたことだった。でももうどうしたって、気付かずにはいられなかった。


だから。



「セイちゃんって、結構ガンコだね」


は?、と突然言われた悪口に声を上げながら横を睨んだ。

でも睨んだ先には何もなくて、視線をそのまま下げると、ハナが芝の上でごろんと寝転んでいる。


「セイちゃんが、自分の世界をどういう風に見ていようと」


ハナが両手を上げる。人差し指と親指を伸ばして、それで小さな四角を作った。

即席の小さなファインダー。シャッターの無いカメラ。

いびつなその中に映るわたしは、一体、どんな顔をしているんだろう。



「俺から見えるセイちゃんは、とても綺麗だ」



その中に、わたしから見えるきみは。

それこそ、誰より、綺麗な顔で笑っている。