ここはどこだろう。



「……なに、これ」


隙間から洩れたような声。

だけどお父さんとお母さんの目が、ハッとわたしのほうを向いた。

交じり合っていて、でも、交わらない視線。



「……星、帰ってたの」


一瞬だけしんと静まった後、お母さんが笑顔を作るのを忘れたままでわたしに言った。

返事は返せない。唇が開くだけで、何も言葉が出てこない。


全身が冷え切っているのがわかった。

寒くはないのに、熱が奪われる。

どこかへ、熱が。表面も、内側も。


お父さんが、ほんの僅か体の向きを変えた。

少しだけ震える指先。咄嗟に、手のひらを握り締める。


「星……こんな時間まで何してたんだ」


ヒュッ、と喉の奥に息が吸い込まれる音がした。

いけないことでもしているみたいに、ゆっくりと、知られないように、吸い込んだ息を吐き出していく。

心臓が痛い。脳みそも、肺も、全部痛い。


「星、何してたんだって聞いてるだろ。答えられないのか!」

「……そんなに……遅い時間じゃ、ないよ」

「ふざけるな! 子どもがひとりでこんな時間まで遊び歩くんじゃない!!」


同時に、響く。

拳で叩かれたテーブルと、その上で跳ねる陶器の音。


「…………」


もう震えることもなかった。

指先も、眼球も、体中が自分の意思で動かせない。

いつもみたいに逃げ出して、隠れてしまえれば楽なのに。

わたしの体は、固まったまま。