普段は重い足取りの道を、今日はちょっと早足で進む。

家まで続く一本道。ところどころに立つ街灯を目印に、まっすぐ道を歩いて行く。


見えてきたわたしの家。カーテンの隙間から漏れる明かり。

お父さんももう居るだろうか。

久しぶりに、家族が揃えたら。



「ただい……」


ドアを開けた途端、びくりと体が震えた。

突き抜けるように響いた──ガラスが粉々に割れる音。


「何をするんだ!!」


同時に聞こえたお父さんの声。わんわんこだまする、狭い廊下。


「どうするんだお前! こんなことをして!」

「うるさい! あなたが文句を言ったからでしょう!!」



……また、淀んでいく。目の前の景色が、どんどん色を変えていく。

──頭の内側で、嫌な鼓動が鳴っている。



リビングに、お父さんとお母さんがいた。

ふたりの間には四角いテーブル。その上にケーキを置いて、みんなで囲んで、食べようと思っていた。


「…………」


割れた食器。散らばった料理。テーブルの端から滴るスープ。

お父さんと、お母さん。


「お前がいつも勝手に思い込んでいるだけだろうが!」

「そうさせてるのは誰だと思ってるの!?」


重たい。耳障りな。

甲高い。地鳴りみたいな。


体中の外と繋がる部分を塞ぎたくなる、声とは思えない響き。


「…………」


テーブルの上にも床の上にも、たくさんのものが壊れて落ちていた。

よく使っていた食器。小学生の頃に買い換えたカーペット。お母さんの料理。お父さんのお気に入りのグラス。

割れて、壊れて、汚れて、違うものになっている。


自分の家じゃ、ないみたいだった。

だってこんなところ、わたしは、知らない。