「芳野先輩はいないの?」
ショーケースの中に並んだたくさんのケーキ。
時間が時間だからそれほど多くはないけれど、土曜は遅い時間までやっているそうで、まだ選べるくらいに残っている。
「うん。誘ったんだけど、また今度来るって」
「そっかー。あたし結構お話するの楽しみにしてるんだから、次は絶対一緒に来てね! てか倉沢さんと芳野先輩が一緒にいるとこ見たいだけだけど」
「なにそれ」
ハナとわたしはそういうのじゃないって、何回言ったらわかるんだろう。
たぶん、何回言ってもわかってもらえないと思うから、もう諦めて言わないけれど。
「そうだ。ここのケーキ、好きなの持ってっていいからね。お父さんにも許可貰い済みだから」
カウンターの向こうにいる三浦さんが、こんこんとショーケースをつつく。
「ううん、ちゃんと買うよ」
「遠慮なんていらないのに。どうせ少しは余っちゃうしさ」
「ありがと。でも遠慮とかじゃなくて今日は買いたいから、お金払うね。また今度、お言葉に甘えさせてもらう」
「あはは、倉沢さんってほんといい子だなー。あたしだったら絶対、じゃあココからココまで全部! って言っちゃうよ」
確かに言いそう、とふたりでひとしきり笑って、それからもう一度ショーケースの中を見渡した。
宝石屋さんのショーケースと、女の子ならみんなどっちの方が好きだろう。
目移りするほどかわいくて、心奪われる商品の数々。
イチゴの乗ったショートケーキやチョコのババロア。
フルーツタルトやティラミスに、今日食べたのと同じミルフィーユ。
いろんな種類がある中で、ひとつ、一番気になったものがあった。
わたしが一番好きなチョコレートケーキよりも先に、パッと、目に付いたケーキ。
それはとてもシンプルな、表面がほのかに焦げたチーズケーキ。



