少し混んでいるみたいだから、もうちょっとしてから入ろうかな。

だけどこんなところでじっと覗いてたら、あやしいヤツに思われるかもしれない。


どうしよう、と考え込んでますますあやしいヤツになっていると、お店の奥、たぶん厨房だと思うんだけど、そこから三浦さんが店頭に出て来た。

この時間でもまだ新しいのを作っているらしい、いくつかのケーキが乗ったお盆を抱えて、お客さんと楽しそうに話をしている。


「…………」


すごい、本当に、お店の手伝いをしてるんだ。

そうとは聞いていたけれどこうやって直に普段とは違う姿を見ると、ちょっと驚く。


前に少しだけ話してくれた。家族だけで、協力しながらお店を回してるって言っていた。

わたしにはびっくりでも、たぶん、この日常は三浦さんにとってあたりまえのことなんだろう。

……なんだか、いろんな部分で、わたしが持っていないものだなあと思う。


しばらくぼうっと眺めていたら、店内にいた最後のお客さんが店から出て来た。

そのお客さんに頭を下げて、そして上げたところの三浦さんと、見事にパッと目が合った。


「倉沢さん!」


と言った声は聞こえなかったけれど、口がそう動いたのがわかる。

こんなところから覗いていたのが気まずくて、とりあえず下手くそに笑って手を振ってみると、三浦さんはいつもどおり愉快そうに笑いながらお店のドアを開けてくれた。