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「どこか行くの?」
「うん、友達の家に寄っていこうと思って。すぐ近くでケーキ屋さんやってるんだって」
「へえ、そうなんだ」
今日の終わりもいつもの時間。
夕方から夜に変わった頃に、わたしたちは公園の入り口で別れる。
「ハナも行く? 顔見せたら喜ぶと思うけど」
「ん、俺はいいや。また今度行く」
「そう、なら、いいけど」
わたしは少し、首を傾げた。
行くと思ったんだけどなあと。でも行かないって言ってる人を無理に誘うこともない。
「じゃあ、わたし行くね」
「うん、気を付けて」
いつもどおりのさよならを言わないさよなら。
見送るハナに背を向けて、わたしはこの間学校で教えてもらった三浦さんのお家へ、記憶を頼りに向かって行く。
公園の入り口からのぼる方向へ坂を進んでいき、ちょっといびつな十字路を左上へ。
そこを真っ直ぐ行って、ポストのある交差点を右に曲がってすぐ。
「……ここ、かな」
もう暗くなってきている道路に、煌々と明かりが漏れている。
道に出ている黒板には、お店の名前とオススメのケーキの紹介が。
外から、お店の中を眺めてみた。
こじんまりとしているけれど、とてもお洒落で可愛らしいお店だ。
カウンターの前にはこんな時間でもお客さんが数人いて、その奥では女の人(三浦さんに似てるから、お母さんかもしれない)が接客をしている。



