「街が下に見えるから、裏の高台のどこかかな」
うーんとハナが首を傾げる。
「セイちゃんは知ってるんでしょ?」
「うん」
「遠くではないよね。駅が見えるし」
「うん」
「ここどこ?」
「秘密」
沈黙が走る。
ハナは訝しげな顔でわたしをじとっと睨んでいたけれど、そのうちハッと表情を変えた。
「もしかして、秘密の場所?」
まさか憶えていたのか、と思ったけどそうじゃない。
たぶん、ハナが毎朝読んでいるというあのノートに書かれていた情報だ。
『素敵なところを発見。秘密なその場所は、セイちゃんが知っている』
いつかの記憶。
ハナは忘れてしまった、けれどわたしの頭には空の色さえ、はっきりと残っているあの瞬間。
「……うん、その、秘密の場所」
「そっか、なるほど。でもそれって、俺とセイちゃんの秘密の場所でしょ?」
「そうだよ」
「だったら俺には秘密にしないでもいいんじゃないの?」
「そういうわけにはいかない。秘密なその場所は、わたししか知らない」
「なにそれ、ケチだなあ」
「うるさい。ハナだって行ったことあるんだから、忘れるヤツが悪い」
「あ、セイちゃんデリカシーないなあ」
「そのセリフ前も聞いた」
言うと、ハナはぷくくと笑って、自分の写真をアルバムに挟んだ。
「秘密の場所は、きみのみぞ知る、か」
透明なフィルムの向こう側から、こっちに笑う自分を見つめて、ハナは独り言みたいにぽつりと呟いた。



