「……悪い?」


逸らされた視線が少しだけ戻ってくる。

上目なのに、普段猫みたいに丸い瞳は軽くだけど細められて。

ほんのちょっとだけ、うらやましいくらいに白い肌が赤くなっている気がするのは、たぶんわたしの希望的観測だ。


「別にね、兄貴とセイちゃんが仲良くなるのはいいんだ。むしろ嬉しいことなんだ。だって自分の好きな人同士が仲良くなってほしいって思うのは当然でしょ。それに俺の兄貴はかっこいいし」


いつもと違う少し早口なハナの声。

聞き流してしまいそうになったけれどちゃんと拾った重要な単語に、今度はわたしの頬が赤くなってしまいそうだ。

でも視線は逸らさない。

だってこんなきみの姿、見逃したら一生の後悔だ。


「仲良くあって欲しいよ。そもそもセイちゃんのすることに口出しだってしたくもないし。でも……なんだろ、なんか、ね。よくわかんないけど……」


もそもそと膝を抱えて顔を埋めるハナ。

今すぐ抱きしめたくなるほどにかわいくて、その衝動を抑えるのにも、叫びたいのを堪えるのにも苦労した。

じわじわと心臓がむず痒い。

今すぐ叫びながら、きみを抱きしめられたら、そんなに楽なことってないのに。


「………セイちゃん」


ちら、と垂れた前髪の隙間から、ハナの瞳がわたしを見る。


「なんでそんなに楽しそうなの」

「へ?」

「笑ってる」


言われて、慌てて頬を両手で押さえた。

もごもごと唇に力を入れて必死で真顔を作ってみる。もちろん、失敗だ。