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「そろそろハナも来てる頃だと思うよ」
「はい。あの、本当に、ごちそうさまでした」
「いいのいいの。それよりも、送っていけなくてごめんね。俺も案外時間なくなっちゃって」
「わたしは大丈夫です。もうすぐそこですし」
「ん。それに、俺がセイちゃんと一緒に行っちゃったら、あいつがヤキモチ焼いちゃうしね」
「それは、無いと思いますけど」
苦笑いをするわたしの横で、お兄さんが楽しげに声を上げる。
小さい頃のハナの話だとか、お兄さんの大学の話だとか(農学部で植物を扱う研究してるらしい)を聞いていたら、いつの間にか思った以上の時間が過ぎてしまっていた。
わたしは結局、自分の分をごちそうになっただけでなく、お兄さんのミルフィーユも半分頂き、お腹いっぱい満足な状態でこうしてお店を出た。
これから大学へ向かうお兄さんは駅の方へ、わたしは公園へ向かう反対の道へ行く。
「じゃ、気を付けてね」
「はい、お兄さんも」
手を振るお兄さんにぺこりと頭を下げて、いつも通る道の続きを進んだ。
お洒落な商店街の大通りを外れる小路、その奥にある噴水の公園。
楓の木に囲まれた、静かな噴水広場を抜けると、人気のない公園の中でも飛び抜けて人気がない場所に出る。
ずっと続く石畳。それの先には芝生が敷かれて、なんのためにつくられたのか、突然小さな丘が現れる。
「……っ」
微かな砂埃。ひとつ、強く吹いた風。
反射で閉じた瞳をゆっくり開ける。視界に映る緑と青。
楓の色と空の色だ。そしてその中に、何十も、バラバラに飛ぶ白い四角。
「…………」
風に乗ってひらひらと。
それは随分大きい紙ふぶき。



