『小さい頃からずっと、いつも俺の前には兄貴が居て、でも背中を向けてるんじゃなくて、振り向いて、手を引っ張りながら前を歩いてくれてた』
事故の瞬間のことも、ハナは忘れてしまったんだろうか。
いや、きっと憶えてる。
早く、ここへおいでって。そう自分を呼ぶ人のこと。
追いつきたくて追いかけた。それができなかった。
でも、今でも、追いかけてる。
『兄貴はね、俺の自慢で、憧れなんだ』
わかってほしいよ。
ハナの大好きな人なんだもん。
わたしにはきっとできない、わたしにはきっとなれない、あなたは、ハナの──
「ん、」
そうやって短く応えるのは、ハナとおんなじだった。
それから目を細めて、くしゃりと笑うのも。
ハナよりも大人っぽくて凛々しい顔立ちだけれど、笑うと随分幼く見えた。
だから余計にハナに似ていて、兄弟なんだなあって、今さらなことを思う。
「ありがと、セイちゃん」
──ああ。
こんなわたしに、一体なにができるんだろう。
なにひとつ、きっと今はできやしない。きみのための役には立てない。
この人みたいに、今まできみの側できみを支えていた人たちみたいに、とても温かいもので、きみを包んであげられたらいいけど。
わたしなんかに何ができるか、わたしにはまだわからない。
でもね、せめて、いつかでいいから。
決してきみは知らなくてもいいから。
わたしが、わたしのために、消えていくきみの心を、誰かに、どこかに、繋げられる人でありたいよ。



