「ねえ、どこまで行くの」
「もうちょっと。ここの上だよ」
そのうち石畳がなくなって、芝生が生えそろった場所に来た。
緩やかな坂が続いている。小高い丘みたいにこんもりと盛り上がっているらしい。
遊具もベンチもなく、あるのは本当に芝とその小さな丘だけ。場所が余ったから作ってみた、って言われても納得できる場所だ。おかげでさっきいた噴水のところよりもずっと人が少ない。
というか、わたしたち以外誰もいない。
「さあ、頂上だ」
その丘にずんずんと登って、一番上でトン、と足をそろえて立つと、ハナは振り返って声を上げた。
わたしの最後の一歩でぐっと手を引いて、その隣に立たせてくれる。
「ほら見てセイちゃん。ここからの景色、俺好きなんだ」
空に向かう右手。少しだけ切れた息を整えながら、まっすぐに伸ばされたその腕の先を、目で、追いかけた。
深く吸った息をほんのわずか止めた。
夕焼けに照らされた、街の風景だった。
さっきまでいた噴水の広場。楓の向こうに、商店街と駅、それから、暮れていく大きな太陽。
今まで見ていたものよりも、空が少しだけ近くて手を伸ばせば届きそうな場所にあった。
一面がオレンジに塗られた、きっとありふれた街の一瞬の景色。