「お兄さんが居るじゃないですか。ハナの側には、いつも」


そう、家族がいる。

わたしだってもちろん、言われなくても勝手にハナの側に居るつもりだけれど。

わたしなんかよりもずっと、ハナのことをよく知っていて、強く、繋がっている人がいる。


比べられるようなものじゃないのかもしれない。

でもわたしは、本当は羨ましかったんだ。

ハナにそんな風に思える人がいることも。そしてそれ以上に、ハナにそれほど思ってもらえる人のことが。

羨ましくて。


「…………」


お兄さんは、少し驚いたような顔をしていた。

だけどそれもほんの僅か。すぐにすっと目を細めて、


「だめなんだよ、俺は」


さっきみたいな、泣きそうな顔で、笑う。


「それって……どういうことですか?」

「大事なんだよ、俺も。ハナのことがね、すごく。大切な弟だ」

「…………」

「だからこそ俺にはだめなんだ。きっと本当はもう、あいつの前から消えなきゃいけないくらいに」


何を言っているのかわからない。

どういうことですか、ともう一度訊こうとしたけれど、それよりも先にお兄さんが、こう続けた。


「俺のせいなんだよ」


冷えかけたカプチーノに口を付けて。

お兄さんはもう、わたしのことを見ない。