「嫌いじゃないって程度なら、何を熱心に撮ってんの? そういう仕事?」
「ううん、ただの趣味。自分で撮って、自分で見るだけ」
「何それ。好きじゃないのに撮るのが趣味なの? 意味わかんない」
「撮るのが趣味なわけじゃないよ。撮った写真を、見たいだけなんだ」
姿勢を戻したわたしの横で、ハナがレンズを空に向けた。
オレンジから、深い青に色を移していく空。ところどころ濃くなるところは、薄く広がる雲だろうか。
それをハナが、カシャリとフィルムに焼き付ける。
「写真を撮ることよりも、撮りたいと思うものを見つけるのが楽しい。それから、ずっと後になっても、それを残しておけることも」
ハナは呟いて、それからふいにカメラを離したかと思うと、そのままわたしの手を取った。
「ねえセイちゃん、来て」
「は?」
ぎょっとするわたしになんて気付かずに、立ち上がってずんずんと進んでいく背中に、ほとんど無理やり引っ張られながらその後ろを追っていく。
「ちょっと、なに、どこ行くの」
「いいから来て」
「はあ?」
痛いくらいじゃないけれど、ハナの手は、わたしのそれをぎゅっと握って離さない。
振りほどこうと思えば振りほどけたかもしれない、でも、そうはしないで、重たい足を、嫌々ながらも前に出す。
ああ、なんか、変な人に掴まった。
溜め息を呑んで顔を上げると、ひょこひょこと揺れる髪が、自分の目線よりも少し高いところにあった。
見慣れない後姿。声だって、聞き慣れない。
当然だ、まったく知らない人だから。
「…………」
でも、握られた手のひら。
自分のものとは違う温もりが、少し、懐かしくて、指先が震える。