「ところでセイちゃん」
「なに?」
「ひとりで大丈夫って言って、全然大丈夫じゃないじゃん」
きょとん、としてしまった。
まさに頭の上にはてなマークを浮かべている状態だ。
何のことを言っているのか、全然わからない。
「南町って、遠いんでしょ。こんな時間にひとりで帰るの危ないって」
「ああ、なるほど」
「なるほど、じゃないよ、もう。送っていくから、一緒に帰ろう」
「い、いいよ。ハナが遅くなるし。わたしもう慣れてるし」
「そうだよ、セイちゃん、いつもひとりで帰ってたんでしょ。もっと早く言ってよ」
なぜそれを、という言葉は、言ったら余計怒られそうだからやめた。
ハナがわたしの家を知らないのをいいことに、ときには「近い」と嘘を吐いてまでひとりで帰っていたこと。
もちろんそんな些細なこと、ハナが、憶えているはずなんてないと思っていたんだけど。
「書いてある」
取り出したいつものノート。そこをぺらぺらと捲って、一ヵ所をわたしに見せた。
「ほら、ここ」
「な、なに……」
そこに書いてあった一文は、『セイちゃん、ひとりで家に帰る』。
「こ……こんなことまで書かなくていい!」
「俺だってどうでもいいことは書かないよ。どうでもいいと思わなかったから書いたんでしょう」
「思わなかったって……なに、わたしをひとりで帰したことに、罪悪感でも感じてたってこと?」
「……憶えてないけど、たぶん、そうじゃなくて、セイちゃんがひとりで帰りたそうにしてると思ったんだと思う」