しばらく、ときどき会話をして、ときどき黙って空を見上げて、ときどきハナの下手な鼻歌を聴きながら丘の上で時間を過ごした。

ここに着いたときから暗かった空はさらに夜の色を深めていって、吹く風も、肌寒くなってきた頃。


「そろそろ帰ろっか」


言ったのは、わたしからだった。

体を起こして背中の草を払っていると、ハナものそりと起き上がって「うん、帰ろ」と言った。


本当に、今日は随分甘えてしまったと思う。

今だけじゃない。1日中、ずっと。

ハナのペースに合わせていろいろとぐるぐる回らされていたようで、でも、そうじゃない。

わたしがまた、ひとりで膝を抱え込んでしまわないように、ずっと側に居て他のことを考えさせてくれていた。

今だって、わたしが「帰ろう」と言わなければ、ハナはいつまででも、わたしに付き合ってくれていたかもしれない。



「ひとりで大丈夫?」

「うん、大丈夫」


慣れた丘の斜面を下りて、噴水の広場を抜け、駅へ続く方の広い公園の入口を出る。

ハナの家はこのすぐ近くらしい。でもわたしが帰る方向とは逆だ。


明るい街灯の下で、いつもと同じような会話をして、さよならの言葉は交わさずに別れる。

それが、毎日のことだったけれど。


「倉沢さん?」


ハナに背を向けるより先に、後ろから呼ばれて、振り返った。


「……三浦さん」

「びっくりしたあ。倉沢さん、こんなところで会うと思わなかったから」


そこには驚いた顔の三浦さんが。

もちろん、彼女がびっくりしたのと同じくらいに、同じ理由で、わたしもびっくりしたけれど。

でも、確か、と思い出した。