時間が経つのはあっという間だった。

あれだけ朝早くから一緒に居たのに、気付けばもう、空はすっかり夜のそれだ。

ちょこちょことゴマ粒みたいな星が闇の中に浮かんで、季節の星座を形作っている。


「さすがに疲れたねー」

「こんなに歩き回ったの久しぶり。て言うか、はじめてかも」

「ん、俺も」


知らないいろんな場所を廻って、迷子になりかけながらもなんとか戻って来た噴水の公園。

わたしとハナは、丘の上に並んで座って、すっかり疲れ切った体を休ませていた。


少し汗ばんだ体に涼しい風が吹き付ける。とても心地いいけれど、それに流された髪が顔にかかるのがうっとうしい。


「髪ジャマだなあ。もう切ろうかな」

「え、もったいないよ。綺麗なのに」

「でも別に、伸ばしたくて伸ばしてるわけじゃないし」

「俺は長い方が好きだな」

「……ハナの好きなようにする必要はないでしょ」

「うん。参考のひとつとして受け取っておいて」

「……どうせ切っちゃうと思うけど」


そう言うと、ハナは「ん、セイちゃんならきっと、短い髪も似合うね」と恥ずかしげもなく返して、笑った。


思えば、こんな時間までハナと過ごしたのは初めてだ。

いつもまだ早い時間でも、ある程度暗くなってきたらハナはわたしを帰そうとするから。

でも、今日は、「もう帰ろうか」とハナは言わない。

わたしが家族のことを話してしまったせいだと思う。

家に帰りたくないと言ったわけじゃないけれど、ハナはたぶん、そんなわたしの気持ちに気付いて気を遣ってくれている。


ハナは優しいから。

自分本位な行動ばっかりするくせに、どこかでちゃんと手を伸ばしてくれるんだ。

わたしはそれに気付かない振りをして、どこまでも、それに甘えてしまっている。



「今日もたくさん写真撮ったから、現像したらセイちゃんに見せるね」


カメラの液晶画面に画像を映して、ハナが今日の成果を確認していた。

撮った写真は、あとからハナが適当に選別して、いくらかまとまったらハナのお兄さんが現像しに行ってくれるらしい。