向けられた手のひら。それをぎゅっと握ってわたしも立ち上がる。

制服のスカートの砂埃を払って、空いた手で、鞄を背負って。


「ハナとのデートはデートじゃないよ」

「あ、失敬だなあ」

「じゃあ今からどこ行って何するつもり?」

「んー……デートと言えば……駅前のお洒落な商店街でお買いものとか?」

「でもわたし制服だから、今の時間だったらおまわりさんに補導されちゃうかも」

「ホドー」


ハナはロボットみたいにそう繰り返して、顎に手を当てて考えるフリをした。

そうして。


「だったら、この辺りをぶらぶら歩く」

「ほら、デートじゃないじゃん」


からからと笑うと、ハナはちょっとムッとした顔をしたけど、すぐに一緒になって笑った。

そのせいで起きちゃったのか、後ろで猫がうるさそうに「ニー」と低い声で唸るから、わたしたちは慌てて人差し指を唇に当てた。


次の進路は階段の奥へ続く小路。それから先はどこでもない場所。


どこかへ行きたくて、でもどこへも行けないこんなわたし。

きみがここに居るそのときだけは、どこへだって、行けるような気がしていた。