「そういうのってさ、撮る前に許可取ったほうがいいと思うんだけど」
「あ、嫌だった?」
「わたしが嫌なわけじゃなくて、普通、そういうもんでしょ」
「そう、だからごめんね。怒らないでいてくれたセイちゃんってすごく良い人だ」
「怒る暇も、なかったんだけどね」
「うん、撮らせてくれてありがとう」
まるで謝っているとは思えないような顔つきに、わざとらしく溜め息を吐いてみたけれど、それでもハナは笑ったまま。
だから今度はわざとじゃなく、本当に呆れて息を吐く。なんだか変な人だなあ、と。
見たことのない空気を、持っている人。
「写真撮るの、好きなの?」
話し込むつもりはなかったけれど、このタイミングで離れるのも今さらだなと思って、膝の上でちょこんと座っているカメラを指差してみた。
ハナの膝の上のカメラは、いわゆる一眼レフってやつだろうか、なんだかとっても立派で高そうに見える。
近所の桜の名所で、春になるとどこからともなく現れるおじさんたちが、似たようなカメラで1日中花を撮っているのを毎年見かけていた。わたしには到底理解できないけれど、いい写真を撮るために、いろいろとこだわりがあるものらしい。
「そのカメラ高いんでしょ」
「さあ、どうなのかな」
「きみのじゃないの?」
「俺のだけど、わかんないや。それに写真撮るのも、好きって言われるとどうだろ。嫌いなわけじゃ、ないんだけどね」
ハナがさっとカメラを構えてわたしに向ける。カシャ、とシャッターが切られる前に、わたしはファインダー内からすばやく逃げる。
そう何度も易々と撮られてなるものか。
身を屈めたわたしを、ハナは笑って見下ろしている。