電話を切り、わたしはしばらく考え込む。


実家、か。


しばらく帰っていないな。

心配してくれるお父さんやミキ姉たちの気持ちは、有難いけれど……。



「――先生、おはようございます」


いきなり斜め上から降ってきた声に、わたしは驚いて飛び上がった。


ふり返ると、ロゴ入りのTシャツが目に入る。

わたしよりずっと背が高い、その人の胸元。


「あ、片瀬くん……おはよう」


いっきに現実に引き戻された。


「どうしたんですか? ボーっとして」

「え、そう? 別に何もないよ」


そう言って避けるように早歩きすると、瑠衣は大きな歩幅で後を追ってきた。

そして隣に並び、こんどはわたしに歩幅を合わせる。


「俺、今から水野先生の授業なんで」


つまり教室まで一緒に行こう、という意味のようだ。


上機嫌の瑠衣とは裏腹に、わたしは少し憂鬱になった。

なるべく関わりたくないのに、どうしてこうなっちゃうんだろう……。