「大丈夫、やで」


やっとの思いでそう口にすると、至近距離にある瑠衣の瞳が、うかがうようにわたしを見た。


「ほんまに?」

「うん。ちょっとごめんね」


わたしは立ち上がり、逃げるように化粧室にかけこんだ。





バタン、とドアを閉めて、やっと息をつく。

何時間ぶりかに呼吸をしたような感覚。


鏡に映る自分の顔を見て愕然とした。

赤くなった頬はまるで、何かを期待しているみたいだ。


どうして。


あんな年下の、しかも生徒である男の子に、どうしてペースを乱されなきゃいけないの?


鏡の自分にたずねるけれど、答えは返ってこない。



気持ちと鼓動をなんとか落ち着かせ、わたしは化粧室の鍵を開けた。


そしてドアを出ようとしたところで、


「ねえ、瑠衣の携帯鳴ってへん?」


涼子ちゃんの声がふいに耳に入ってきた。