「瑠衣、お前も赤点取らんように気をつけろよ」


栗島くんが言うと、瑠衣は「俺?」と意外そうにした。


「俺は大丈夫やし。少なくとも英語だけは、絶対大丈夫」


こっそり聞いていたわたしは、ふいに自分の話をされたような気がしてあわててしまった。



「――水野先生? どうかしました?」


受付のスタッフの声で、我に返った。

用事がすんでも立ち去ろうとしないわたしをスタッフは不思議そうに見ている。


「あ、……すみません。ボーっとしてました」

「疲れてるんじゃないですか?」

「そう、かもしれないです」


ぎくしゃくと会釈して、わたしは受付を出た。

まだはしゃいでいる瑠衣たちの方を見ず、教室に戻った。


わたしと瑠衣はあれ以来、普通にあいさつを交わすていどの仲だ。

ホテル街での一件も、夜中にファミレスですごしたことも、特に話題にはしない。


ただ淡々と毎日が過ぎていくのだと、このときは思っていた。