自分の目で確かめなきゃ信じられなかった。
 

部屋を飛び出して数年ぶりに訪れた、高台に建つその家。

タクシーを降りる前から、人の気配がないことがわかった。
 

ドアノブに手をかけて、鍵すらかかっていないことに胸が切り刻まれる。
 

ゆっくりと玄関に入った。

バスクリンの匂いは、もうしない。


「……叔父さん?」
 

返事はなかった。


「……叔母さん?」
 
応えてくれるはずなどなかった。

 
部屋は泥棒でも入った後のように散らかって、あらゆる引き出しが開けっ放しになっていた。


昨夜出て行ったばかりとは信じられないほどに荒みきった空間だった。
 

右側のふすまを開ければ、そこは寝室。
 

――いつかわたしの一部が壊れてしまった、哀しみの場所。


「……どうして」
 

唇が切れそうなほど噛みしめた。

 




過去は過去のまま、どこまでも遠くに逃げていく。


わたしはただ、今もどこかで泣いている6歳の葵を救い上げ、抱きしめてあげたかっただけなのに。



叔父は、消えてしまった。
 


失われたわたしの子供時代をつれて。