新手のジョークだろうか。

そう思ったけれど、目の前の顔は真剣そのものだった。


わたしは、しばらくすると頬のあたりがヒクヒクしてきて、ついに大声で笑い出した。


「えっ。なんで笑うんすか?」

「ごめん、君、おもしろすぎるわ」

「はあ……」


腑に落ちない表情の瑠衣は、自分の発言をふり返って少し恥ずかしくなっているようにも見える。


この子は、本当に純粋なんだ。

笑いながらしみじみ思った。


妻子もちの山崎にとってたしかにわたしは遊びだったけど、それはお互い様のこと。

だけど瑠衣の中の常識では、そんな発想は生まれないんだろう。

女の傲慢さや人の醜さ、汚いものをまだ知らない、瑠衣の中では。



「心配してくれてありがとう。でも山崎先生とは今日でお別れしたから」


そう言うと、瑠衣はあからさまにホッとした顔をした。


「そっか、よかった」

「もしかして心配で今日も見張ってたん?」

「……すんません」

「正義感が強いのはいいことやけど、これからは高校生があんな場所でうろついたらアカンで?」

「はい」


素直にうなずいて、瑠衣はアイスティーを飲み干した。


「何か飲み物取ってこようか?」