わたしは何も言えない。

それをわかっていたかのように、涼子ちゃんはひとりで言葉を続けた。


「出るわけがないんですよね。
女の人の部屋に、携帯置き忘れてたんやから」


涼子ちゃんはもう“女の子”という言い方をしなかった。

そこにこめられた想いは、わたしにもたやすく想像できた。


「先生」


交差点の真ん中で足を止め、見下ろしてくる涼子ちゃんの目に、射抜かれた。


「わたしね、本気で好きなんですよ――」


信号が点滅している。

青から赤に、変わろうとしている。


「――瑠衣のこと」




いつまでも立ち尽くすわたしを、クラクションが早くどけと急かした。