「はい。全っ然オッケー。じゅうぶんっす」


笑顔を崩さないまま、親指を立てる瑠衣。

人の心に飛び込むのがうまい子だ。

無邪気に喜ぶ彼を見て、少し意地悪な気持ちでそう思った。


「じゃあ、また」

背中を向けて歩き出すと、うしろから

「いいな~お前」

という栗島くんの声が聞こえ、続いて瑠衣の

「ええやろ~」

が聞こえてきた。


おいおい、丸聞こえだよ君たち。

と心の中で突っ込んで、だけど気にせずに次の教室に向かう。



そういえば、瑠衣みたいな男の子はわたしの高校時代にもいたな。


何もかも恵まれていて、それを鼻にかけない性格が同性からも好かれていて。


たぶん苦労とは無縁に生きてきたから、変に悪ぶったりひねくれることもなく、まっすぐ育った男の子。



あのときホテル街ですれ違ったのは、やっぱり人違いだったのかもしれない。

たしか、むこうは女を連れておらず、ひとりだった。

いくらなんでも高校生がひとりきりであんな場所をうろついているなんて、不自然すぎる。


そうだ。
あれは、きっと別人だったんだ。


自分に言い聞かすように、わたしは何度もそう唱えた。