美空を連れてきたのは、碧がいるいつもの川。


隣町とのちょうど境目であるここなら、学校の人には見られないし、まず人通りもそんなにないところだから、余計に人に見られることもない。


まあ、上履きのまま走ったりしたから変に目立ってしまって、ここに来るまでにいろんな人にじろじろと足元を見られたけどそこは我慢してもらおう。


「あ、蒼唯ちゃんっ。ここは……?」


疲れたのか、美空が肩で大きくしながら問いかけてきた。


「あたしの大好きな場所!」


あたしは美空にそう答えて、土手へと降りる。


しばらく辺りをキョロキョロと見回してみたけど、珍しいことに碧の姿はどこにもない。


「……あれ、いない」


あたしは1ヶ月以上毎日のようにここに来ているけど、碧がいないことなんて、たぶん初めてだ。


「誰がいないの?」


「あたしと、美空の恩人。いつもここにいるから美空にも会わせてあげようと思ったんだけど、今日はいないみたい」


“美空の恩人”という言葉が気になったのか、「どんな人?同い年?」と興味津々に質問攻めにしてくる美空。


あたしは、美空にそのまま土手に座るように促して、碧とのことを出会った時のことから話し始めた。