「えっ……」
「あんたもやりなって。うんざりしてたんでしょ?助けてなんて頼んでもいないのに、いつまでも善人面されるから」
美空は戸惑っているのか、「えっと……」と言葉を濁す。
確かに頼まれたわけじゃないけど、あたしは一度も善人ぶったことなんてない。
美空も、そんなことよりいじめの標的が自分じゃなくなったことに、ただ安心していただけのはず。
そんなこと思ってない……はず。
「ねぇ、そうだよね?ウザイと思ってたんだよね?正義感振りかざして勝手に助けられて。うっとうしいって思ってたんでしょ?」
心臓が、何故か変にうるさい。
「……うん」
美空の小さな声が聞こえた。
「きゃははは!川原さん聞こえましたー?美空ちゃん、あんたに助けられてこれっぽっちも嬉しくなかったんだってさー!」
五月蝿い、ウルサイ、うるさい。
「須藤さん、やっちゃいなー!」
「えっ……私が……?」
「やりなさいよ」
清水さんの冷徹な声に逆らえなかった美空は、バケツを手にしてあたしを上から見下ろした。
「……っ!」
美空は下唇を噛んで、あたしから目を逸らすと、バケツをひっくり返す。
あたしはそんな美空の姿をただただ黙って見つめていた。