「あ、あの、ありがとう川原さん……」
後ろから控えめに声をかけられ、あたしが振り向くと、目を丸くしたままの美空がそう言ってきた。どうやら、未だにあたしの登場に驚いているらしい。
「美空、大丈夫?」
ポケットからハンカチを取り出し、まずは美空のコーヒーを拭き取る。せっかくの綺麗な美空の髪が、コーヒーのせいでキシキシだ。
「制服汚れちゃったし、ジャージに着替えたほうが……」
そこまで言ったところで、さっきまでびっくり顔だった美空が、突然声を上げて泣き出した。
「美空!?どうしたの?痛いことされたの?」
おろおろとしながら聞くと、美空がぐしゃぐしゃの顔を両手で拭いながら首を横に振る。
「川原さん……今までごめんなさぁい……!」
嗚咽混じりの声で、美空が謝ってきてくれた。
助けてもらったのにお礼も言わなかったこと。そればかりかいじめの標的になったあたしを見て見ぬふりしたこと。それから、清水さんに命令されて、あたしに水をかけた時のこと……。
「ずっと、謝りたかったんです……。でも、私が弱いばかりに川原さんを傷つけてしまって……本当にごめんなさい…!」