しばらく、碧の温もりに身を委ねたあと、あたしは顔を上げた。
「じゃあ、いってきます」
碧があたしの頭を撫でて、こくりと頷く。
「俺、ここで待ってていいかな」
「うん。学校終わったらすぐに行くから」
あたしの返事を聞いた碧が、嬉しそうに無邪気に笑う。
碧にこれでもかというぐらいたくさん勇気をもらったから、もう大丈夫。
碧と別れたあとも、意外にも足取りは軽かった。
単語帳を開いて、ギリギリまでテスト勉強をしながら歩いていると、不意に周囲が騒がしくなり始める。
気が付くと、もう学校のすぐ目の前まで来ていて、たくさんの生徒たちが友達と話したり先生たちと挨拶を交わしたりしながら校門をくぐっていた。
「……着いた」
少し震え始めた足をなんとか動かして、あたしも下駄箱のほうへ向かう。
きっとないだろうと思っていたあたしの上履きは、驚くことに最後に下駄箱にしまった時のままの状態で置いてあった。
上履きの中に何か入っていたり、暴言を書かれていたり、心無い言葉が書かれたメモが入っていたり。
そんなことも何もなく、想定外のことにしばらくその場で固まってしまった。
いじめが終わったのならそれはそれでいいんだけど、どうも引っかかる。
あの人たちが、あたしを不登校に追いやったぐらいでこうも簡単にやめてくれるだろうか。