「先生、まだ聞かないんですか?あたしが学校へ行かなくなった理由」
あたしがおずおずと聞いてみると、先生はふっと表情を和らげる。
「聞いてもいいのかな?」
そんなふうに返すということは、やっぱり先生は、あたしが自分から言い出すのを待っていたらしい。
「……」
言えないわけじゃない。
先生のことは信頼してるし、あんなことがあったと話せばきっとあたしや美空の力になってくれるだろうと思う。
でも、先生に言ったことがバレてさらにいじめがひどくなっても嫌だ。
だから、いじめがあったということはやっぱり、言えない。
今なら、ニュースでよく見るいじめの事件で、いじめられていた人が誰にも相談できなかったという気持ちがわかるような気がする。
相談できる人がいないというのもそうだし、いたとして、あたしも始めは、先生どころかお母さんに言うこともためらってしまった。心配をかけることが目に見えているから。
仮に相談できる人がいたとして、それを自分をいじめてる人たちに知られてしまったらと思うとどうしようもなく怖い。
あたしには幸い碧がいたおかげで、前に進もうとしていられるわけだけど。
だからやっぱり、あの日、碧と出会えたことに感謝しないといけない。
「川原さん?」
「先生ごめんなさい。それだけは、どうしても……」
澤田先生の顔が曇る。
あたしは言葉を続けた。
「でも、何かあった時には澤田先生に助けてもらうつもりなので、よろしくお願いします」