「ちょっと、いいですか」
リビングから席をはずして、あたしは自分の部屋に戻り、携帯電話を手にする。
碧に相談しよう。
碧のあの優しい声で「蒼唯なら大丈夫」って言ってもらえれば、背中を押してもらえれば、あたしはきっと行けるような気がするから。
そう思い、碧に電話をかけようとアドレス帳を開いた時。
碧の名前がどこにもないことに気付いてしまった……。
そうだった、毎日一緒にいたから連絡をとる必要なんてなくて、番号を聞いていなかったのを忘れていた。
明日碧と会った時にしようか、いや、学校に行くなら行くと答えは早い方がいいと思う。
どうしよう、どうしよう。
なんて弱い人間なんだ、あたしは。
学校に行くと自分で決めたはずなのに、いざそれが現実的になると急に怖気づいてしまった。
澤田先生には迷惑をかけるけど、もう今回は諦めて、家でテストを受けようかな……。
携帯電話を握り締め、ぎゅっと目をつぶり、そう考えてしまったその瞬間。
“大丈夫だよ。怖いのはみんな一緒だから。
蒼唯は弱くない”
今日、碧に励ましてもらった時の言葉が頭の中で響いた。
“蒼唯はひとりじゃないから”
脳裏に、いつもあたしの心を照らしてくれたあの太陽みたいな温かい碧の笑顔が浮かんできて。
心にあった不安がなくなっていった気がした。