垂れた犬の耳が見えてきそうなぐらい、しゅんとした様子で碧が言った。
「蒼唯が学校に戻ったら、ここに毎日来ることもなくなるんだよね……」
碧にそう言われて、あたしは固まってしまった。
全然考えてなかったし、気付いていなかった。
そうだ、学校へ行き始めれば、通学路でもなんでもない、隣町と結ばれたこの橋に来ることなんてめっきり減るに決まっている。
そうなれば、もちろん碧と会うこともなくなってしまうわけで……。
……って、そんなことあるか!
「あ、ごめん!俺変なこと言って。気にしないで。学校のほうが大事なんだから」
顔を少し赤くして慌てる碧に、あたしは笑顔で言った。
「大丈夫だよ、碧!あたし、学校に戻っても時間を見つけてここに来るから!」
ここまで来るには少し遠くて面倒な回り道になるけど、碧に会うためなら苦ではない。
「こんなこと言うのはちょっと恥ずかしいんだけど、あたしには碧が必要だからさ……」
碧は、あたしの言葉を聞くや否や表情をパアッと明るくして、キラキラの笑顔を浮かべる。
「嬉しいなぁ。蒼唯にそんなふうに言ってもらえて」
あたしがお礼を言ったのに、碧は「ありがとう」とつぶやいてあたしをぎゅっと抱きしめる。
“蒼唯にそう思ってもらう為に、
俺はここに存在しているから……”
耳元で聞こえたその言葉の本当の意味は、今のあたしにはまだ理解することができなかった。