「あ、そんなひどいいじめじゃないんだよ。小学生の頃だから今はもうそんなのないし」
あたしが眉根を寄せて険しい顔をしていたからか、安心させるような落ち着いたトーンで続ける。
「ここの川は俺の通学路だったんだけど、その道中でいじめっ子にからかわれてた時にね、一人の女の子が突然飛び込んできてさ」
その時のことを思い出しているのか、碧は少し目を伏せるようにして、口元に笑みを浮かべた。
「『弱い者いじめするなーっ!』って、いきなり俺の前に庇うように立ちはだかって、俺をいじめてた奴らを追い払ってくれたんだよ」
「今の蒼唯みたいにね」と、あたしに優しい目を向けてくる。
一瞬その大人びた碧にドキッとしたものの、それと同時にチクリと心臓に針が刺さったような感覚がした。
なんとなくだけど、その女の子のことを碧が特別に思っていることがわかってしまったから。
「びっくりしたけどヒーローが現れたみたいで、女の子なのにかっこいいって思っちゃったよ」
「そ、そっか……」
「それからも度々俺を助けてくれて、そのうちにその子と仲良くなってね、この川辺でよく会うようになったんだ」
「……そうなんだ」