「びっくりしたよ、蒼唯」


「碧」


男の子を見送ると、後ろにいた碧が安堵の息をつきながらつぶやいた。


「蒼唯、少年たちにげんこつでも一発くらわせるのかと思っちゃった」


「そんなことしないわよ」


確かにちょっと気の強いところがあるのは自覚してるけど、いくら庇うためとは言っても年下に手を出すようなことはしないもん。


「あの子、これでちょっとは学校に行きやすくなるといいね」


「そうだね」


あたしの言葉に碧が微笑んで頷いた。


そして、あの憂いを帯びた寂しそうな目をして、川をオレンジ色に染める夕陽を眺めながら。



「俺にもいたなぁ。今の蒼唯みたいに、いじめられてた俺を助けてくれた女の子が」



……え?


独り言みたいに聞こえた碧の言葉。
耳を疑うその内容に、あたしは碧の横顔に問いかけた。


「み、碧も、いじめられてた経験……あるの?」


初めて会ってからもう結構経つけど、一度もそんな話を聞いたことがなかったのに。


「……うん、さっきの子と同じぐらいの時。小学生の頃にね」


そうだったんだ……。
もしかして、だからあたしがいじめを苦にここの橋から飛び降りようとした時、碧は助けてくれたのだろうか。