「蒼唯。澤田先生は、蒼唯の為に忙しい中家まで来て、蒼唯の抱えた傷を少しでも理解しようと頑張っているんだと思うよ。だから、その先生の行為を素直に受け止めなきゃ」


碧は起き上がり、人差し指を立てて次々と小言をぶつけてくる。


「あー、わかったって」


あたしはそんな碧に目もくれず、寝転んだまま赤い顔を見られないようにそっぽを向いた。


「……あたしは、学校では独りぼっちだと思ってたんだけどなぁ」


「自分が気付かないだけで、意外と身近に自分の味方になってくれる人がいるものだよ」


碧がふふっと笑う。


そして、あたしの頭をそっと撫でて、憂いを帯びたような少し低いトーンで言った。


「だから、蒼唯が助けた美空ちゃんも、唯一自分に味方をしてくれるはずだった蒼唯を裏切っちゃったんだから、可哀想な子だよね」


碧の言葉に、あたしは思わず眉間にしわを寄せる。


美空とのこと、忘れようにも忘れられないぐらい、あたしの中では嫌な思い出として強く残っている。


「美空の話はいいよ。思い出したくない」


「美空ちゃんは、蒼唯に助けてもらってもまだ、心までは救われていなかったのかもしれないね」


「碧」


美空の話はやめて、と訴えるように思いきり睨むと、碧は苦笑して「そうだね、ごめん」と言ってそれきり美空の話題は出てこなくなった。