「それにしても、一体誰に渡すのかしらねぇ。お母さんに教えなさいよ〜」
お弁当箱をバッグに詰めていると、お母さんがニヤニヤしながらあたしの肘をつついてきた。
「な、内緒!」
照れ臭いから適当にあしらったけど、お母さんは「もしかして彼氏〜!?」となおも食い下がる。面倒くさい。
「最近よく出かけるのって、彼氏とデートだったからなの?」
「彼氏じゃないって!命の恩人なの!」
はぐらかしたようだけど、間違ってはいない。
でもお母さんは納得がいかないのか、「ふーん?」と少し疑うような目をする。
ていうか、仮に彼氏だったとして、毎日のようにデートなんてする余裕があったら学校に行くっつーの!
「じゃあ、いってきます!」
心の中でズバッとツッコミを入れたあと、あたしはこれ以上お母さんから追求されないように、さっさと家を出ていつもの川へ向かった。
碧、喜んでくれるかな。
全部食べてくれるといいんだけど……。
勝手に、いつもの碧の優しい笑顔を想像してみる。
自分で想像しておいてなんだけど、その笑顔があまりにもふわふわで気の抜けた表情だったものだから、思わずひとりで笑ってしまった。