「ただいまー!」
中には入り、リビングにいるであろうお母さんに言いながら靴を脱ぐ。
すると、見知らぬ靴が綺麗に揃えて並べられていたのが目に付いた。
ピンク色のハイヒール。お母さんのものではない。
お客さんでも来ているのかな……。
そう思いながらリビングを覗くと、あたしの予想はドンピシャで。
「あら、蒼唯。おかえり」
お母さんが先にあたしに気付く。
すると、お母さんの向かいに座っていた女の人もあたしのほうを振り向いた。
「川原さん、久しぶりだね」
毛先を巻いた長い髪を揺らして、女の人があたしに笑いかけた。
彼女はあたしの担任……澤田先生だ。
「……お久しぶりです」
澤田先生はすごく若くて、ついこの間先生になったばかり。いつもにこにこしてるから話しかけやすいけど、それ故一部の生徒にはなめられているし、あたしも頼りないと感じている。
現に、澤田先生は、自分のクラスでいじめがあった事実を知らない。
「川原さん、急に学校来なくなっちゃってどうしたの?」
だから、そんなことを平然と聞いてくるんだ。
「……別に」
話したところで、先生がなんの助けにもならないことなんてわかりきっている。
あたしは先生から目を逸らして、ぶっきらぼうに答えた。