幽霊の碧が見せてくれている生前の彼の記憶のおかげで、次第にあたしも自分の記憶を取り戻してくる。


毎日毎日この川で会って、他愛もない話をしたり遊んだりしていた。


碧の記憶が自分の記憶としてハッキリとしてくると、やっと懐かしいという感情が沸き上がってきて、時折涙が出てきそうになった。


そして、あたしが碧との記憶をなくす要因となった、“あの日”の場面になった……。



『うわあぁぁっ!誰かっ……助けて!』



雨で水かさの増した川の中で、子犬を抱えた碧が必死で助けを呼ぶ。


この頃、あたしと碧が可愛がっていた捨て犬がいて、この川で2人で面倒を見ていた。
その捨て犬が、川に流されそうになったところを、碧は助けようとしてこの危険な川に飛び込んだのだ。


『助けて!誰かっ……!』


水面になんとか顔を出して碧が何度も助けを呼ぶけど、ここはもともと人通りが少ない場所で、助けてくれそうな大人が来てくれる気配はない。


その時だった。



『碧っ!!!』



ランドセルを土手に投げ捨て、慌てて駆けつけたあたしが川へと飛び込んだ。


『あおちゃっ……ダメだよ!危ない!』


『このままじゃ碧が溺れちゃうもん!!』


自分が溺れそうになる中、あたしの身を案じてくれる碧。それでも、そんな彼の制止は聞かず、あたしは濁流をかきわけるようにして泳いでいく。