でも、あたしの中でどんどん膨らんでいく不安が、真実を知ることを反射的に拒んでしまったのか……。


「あ……や、やっぱり何でもない……」


口から出かけていた質問を、思わず飲み込んでしまった。


「何よそれー」と笑うお母さんに、あたしも必死に作り笑いを浮かべる。


「まあ、記憶が戻っても戻っていなくても、あの日からだいぶ経つし、その手紙は蒼唯が持っていていいわよ」


お母さんはそう言うと、捨てる物をまとめるためにゴミ袋を取りに部屋を出ていった。


その後ろ姿をぼんやりと見送ったあと、手元の封筒に視線を落とす。


聞かなきゃいけない。あたしがその事実に関する記憶をなくしてしまっているのなら尚更、思い出す必要がある。


でも、走ったあとみたいに速い鼓動と、尋常でない胸騒ぎが、嫌な想像ばかり浮かび上がらせてしまう。


お母さんじゃなくても、彼に直接聞けば一番早いのに、そうすることができない。怖くて。


あたしは、封筒の中身まで見る勇気はなくて、とりあえず自分の部屋の引き出しに入れておくことにした。


もう一度、差出人の名前を見る。



【空河 縁】



あたしの大好きな人の名前は……空河碧。