しばらくして落ち着いたのか、あたしの腕の中にいた美空がゆっくりと顔を上げた。


「あっ……えっ!?もうこんな時間!?」


美空が驚くのも無理はない。
なんせ、窓から差し込んでくる陽の光はすでにオレンジ色になっていて、もうとっくに下校時間を迎えていた。
皆帰ってしまったのか、廊下には人の気配がまったくといっていいほどない。


「ごめん、蒼唯ちゃん。今日も碧くんのところに行くんだったんだよね?」


「ううん、今日は行かないつもりだったから大丈夫」


昨日のことがあるし、あんなことを言ってきた碧に対して多少の怒りもあるから、きっと会いに行っても気まずいだけ。


そう思って、あたしは今日は川に行くのはやめることにしていた。


そうだ。思いきって、美空に昨日碧に言われたこと聞いてみようかな。


「ねぇ、美空」


こっちに顔を向けて、首を傾げる美空。


「あのね、昨日碧に言われたんだけどさ……。
美空、自分がいじめられてることに心当たりとかって、ある?」


あたしの質問が思いもしなかったものだったのか、美空は目を丸くした。


「あっ!ごめん!特に深い意味もないし、美空が何か悪いことしたんじゃないかとか疑ってるわけでもないんだけど……碧があんまり真剣に聞いてきたからさ」


慌てて笑顔を取り繕いながら両手を顔の前で振ったけど、意外なことに美空は表情を曇らせる。


そして、俯きながら静かに言った。



「実はね、清水さんにいじめられてる理由、心当たりがないわけじゃないんだ……」