美空に水をかけられたところで、1時間目の予鈴が鳴り響いた。


「よくやったわ、須藤さん」


「……」


そんな清水さんと美空の会話を最後に、いじめグループたちはあたしを置き去りにしていった。


呆然と立ち尽くすあたし。


何とも言えない感情がわきあがってくる。
でも、怒りとか悲しみとか、そんな一言で表せるような感情じゃない。


なんだろう、この真っ黒でぐちゃぐちゃした気持ちは……。


別に、美空に庇って欲しかったわけじゃない。あたしが勝手に美空を助けただけで、恩を返してもらうほどのことなんてしてないのはわかっていた。


じゃあ何で、吐きそうなくらい胸が苦しいんだろう。


しばらく考えてみて、そしてわかった。



「……ああ、そっか。あたしはやっぱり偽善者だった……」



少なからず感謝されていると思ってしまっていた。心のどこかで。



いつかは、あの時はありがとう、と言ってもらえる日が来るんじゃないかと思ってしまっていた。人間はそんな優しい生き物じゃない、と頭ではわかっていたのに。


助けてはくれなくても、あたしと美空は“いじめられっ子仲間”だと勝手に思い込んでいた。


だから、美空がかけた水を浴びながら、



“裏切られた”



そう感じている自分がいた……。