「男らしいね〜、伊藤ちゃん」
俺がにやにやしながら言うと、藤野ちゃんは顔を赤らめつつ嬉しそうに笑った。
「私にはもったいないくらい、かっこよくて頼りになる彼氏さんです」
うらやましくなるぐらい、幸せそうな笑顔を俺に向けてから。
お客さんを見送るために、伊藤ちゃんのあとを追った。
ちょうどその時、ポケットの中の携帯が震え、着信を知らせた。
「もしもし」
〈あ、パパ?まだおしごとしてるのー?〉
「うん、そうだよ」
我が子の可愛い声。
それに混じって、10年一緒に苦楽を共にしたパートナーの声も聞こえてくる。
〈パパ、10じまでにかえってきて!やくそく!〉
「うん……わかった。パパ頑張るね」
電話を切って、ため息をひとつ。
社員には、売り場の最終チェックたり売上金を数えたり。
まだまだ閉店後も、やらなきゃいけないことが山ほどある。
ごめんね、こうすけちゃん。
パパ、10時には……帰れないだろうな……。
‐fin‐