「あの伊藤さんって、彼女とか……いるんですか?」
「え……」
なるほど、そっから告白に持ってくつもりなのね。
伊藤ちゃんもただならぬ雰囲気を感じて一瞬目を見開いたぞ。
「いや……いないです」
少し低い伊藤ちゃんの声。
藤野ちゃんの緊張が伊藤ちゃんに移ったみたいで、かすかに震えていた。
「そうなんですか……」
「藤野さんは?彼氏、いるんですか?」
質問を返されるとは思ってなかったのか、藤野ちゃんはびっくりしている。
「い、いません!」
「そうなんですか。ずっといるのか思ってました」
「ずっと、いません」
一度区切ってから、「でも、」と藤野ちゃんはすぐに言葉を繋ぐ。
制服の裾を掴んだ拳は、遠くで見てる俺からでもわかるほど震えていた。
「彼氏はいないけど、ずっと、好きな人はいます」