髪から滴を落としながら、目を丸くしてそう言う蒼ちゃんを見ると、なんとも言えない気持ちで胸が熱くなった。
心臓が、まぶたが熱くなるのに、どうしたらいいかわからなくて。
私は畳んだ傘でやみくもに、蒼ちゃんの体を打った。
「どうしてじゃないでしょ!!電話でないし!」
「あ、ごめん…電池が切れてて」
「雨…降ってるし…!時間過ぎても帰ってこないし!…それに、マリ…」
マリナさんは、
マリナさんは…
蒼ちゃんの右手に握られた、コーヒー。
カフェでテイクアウトするときの入れ物に入った、コーヒー。
それを見ると言葉が詰まった。
――マリナさんは本気じゃないのに…
「あんた、本気でバカなんだから…」
胸が詰まって、言葉がうまく出てこなかった。
絞り出すようにそう言って、うつむくと。
頭の上に温かいものを感じた。
「…ごめんね、ユッキー」
蒼ちゃんの手が、ぽんぽんと私の頭を撫でた。
「傘がないのを心配して来てくれたんだよな?…ありがとう」
小さい子みたいに優しく言われて、恥ずかしいのと腹が立つので頬が熱くなった。