エレベーターで下まで降りたと同時に電話を掛ける。
時刻はもう19時を過ぎようとしていた。
相手は、マリナさん。
数回の呼び出し音のあと、少し小さめの声で「ユッキー?」と聞こえてきた。
少し、遠慮してるような声。
マリナさんにイライラすることなんて何回もあったけれど、このときはマックスだった。あとにも先にもないくらいに。
「蒼ちゃんの携帯番号教えて!」
「どうしたの、急に。ちょっと今取り込み中で…」
「あのね!」
ロビーにまで響く雨の音に負けないぐらいの声を張り上げて、言った。
「自分のことぐらい、自分で片付けなさいよね!もう大人なんだから」
「ユッキー?」
「いいから!蒼ちゃんの番号」
「わ、わかった。メールするからっ」
慌てたようにそう答えて、電話がぷつっと切れた。
その2分後に、ショートメールで電話番号が送られてくる。
心底イライラしながら、私はその番号に掛けた。
右手で携帯を、左手で傘を持って、雨の夜の中に出ていく。
…早く、出なさいよ。