つい昨日までは、突然やってきた居候と思っていて、いまいましくさえ感じたのに。
どうしてか、今は、「早く帰ってきたらいいのに」と思う。
蒼ちゃんは犬だ。私の中では。
でも、一度知ってしまったら、他人だけど、完全な他人ではない。
――「34歳のオバサンなんかに本気になるわけない」
マリナさんの言葉が頭に浮かぶ。
さっきは、一瞬、私も「そうなんだ」と思ってしまった。
でも今、もう一つ頭に浮かぶのは、最初に見た蒼ちゃんの澄んだ瞳だった。
――「俺は、
あなたのお母さんの、恋人です」
座っていたソファーから立ち上がって、もう一度窓に歩み寄った。
あの瞳を思い出せばわかる。
蒼ちゃんが話した言葉全部、表情全部がはっきりと示していた。
…蒼ちゃんは、本気だ。
本気で、マリナさんが好きなんだ。
――遅くなるかもしれない、と言ったのは、もしかしたら。
なんて考えが、浮かんできた。
今朝だって、マリナさんの名前を連呼していたから。