エレベーターにも、4階の廊下にも、そして部屋にも。
ほんのりとマリナさんの残り香を感じた。
「…ただいまぁ」
暗闇に呟いて、部屋の電気をパチンと点ける。
さすがに今日は誰もいない。
昨日は蒼ちゃんが寝転んでいたソファーに鞄を放り投げて、ふぅと一息をついた。
テーブルの上には鍋が置かれてあって、匂いからして中身はカレーだとわかる。
マリナさんのカレーはおいしい。
良かった、晩ごはん作らなくて済む。
そう思いながら、部屋の時計を見上げたときだった。
「……わっ」
――ザーーーッ…!
急に激しい雨音が聞こえた。
慌てて部屋の隅々に走って、雨戸を閉める。
ガラスの窓をきっちりと閉めても聞こえる、雨の音。
…やっぱり、急に降り出した。よかった濡れなくて。
そう思ったと同時に、私の脳裏に浮かんだのは、さっき会った蒼ちゃんだった。
――「傘持ってる?」
―――「持ってない」
―――「18時までだけど、ちょっと、遅くなるかも」
時計を見上げた。
18時30分。