ふわっと飛び込んでくる、独特の、いい匂い。
ぱっと輝きを放つような、華やいだ雰囲気。
薄いピンク色のワンピースを着こなして、長い髪をきれいに巻き上げている。
耳元には光るピアス。そしてパールのネックレス。
――三日ぶりに見る、マリナさんの姿だった。
白くて整った顔立ちが、ふわっと崩れる。
目元はピンクラメのきらきらしたアイシャドウで、唇はツルツルの桜色。
自分がどうすれば美しく見えるのかをよく知っている、完璧なメイクが施されている。
私の胸に、さっと予感が走った。
「ちょうどよかった~!!一瞬だけシャワーと着替えのために家まで戻ってね。これからまた出るところだったのよ」
「…仕事?」
「今まではね。今からはちょっと食事があって、また残業」
「食事ねぇ」
私は腕組みをして、完璧にキラキラメイクを施している母親の顔を見上げる。
彼女はいたずらの見つかった子供のように、細い肩をすくめてみせた。
「なーによ、怖い顔しちゃって」
「誰と?会社の同僚と?」
「まぁね」
「二人で?」
「やだ、ユキノちゃんたら、細かいんだから」
細くて白い指で、つんと私の頬をつつこうとする。
それをさっとよける。
…私を「ユキノちゃん」と呼ぶときのマリナさんは、大概私に隠したいこととか誤魔化したいことがあるときのマリナさんだ。